井上鑑氏「僕の音」Live vol.1-2@心たばねて

 井上鑑氏のリリカル・アコースティックライブ「僕の音」、
 第一部の演奏が終了し、15分間の休憩に突入。

 この15分の間、鑑さんには、どのような想いが去来なさっていらしたのだろうか?

 ガッチリ固められた正装の黒い衣裳から、通常バージョンのラフな衣裳に着替えられて、
少しは肩の荷が下りたように感じていらしたかな?

井上鑑氏「僕の音」ライブ Vol.1


僕の音:英国式音楽造園術 Vol.1

染 め Absolute
はずみ バルトークの影
見渡し Criteria

見切り Wordium(組曲)
      (Serendipities 1 : Rounding KAVAKOV : アモルフィ :
       Serendipities 2 Waterfall : And Cool Thom :
       地上にただひとつの : Serendipities 3)
(Intermission)
うたた Wish
寄 せ Herbarium([千律譜 BASHO]組曲)
      (Rock Azaleas : 5000 Oak Trees : 睡蓮 :
       花カマキリ : Up North : Rock Azaleas)
深入り Soundings


 後半は、『wish』から始まった。
 こころざし半ばで空へと旅立たれた本田美奈子.さんへ捧げるオマージュ曲である。

 「退院したら歌いたいから」という美奈子.さんからの申し出に応えて鑑さんが曲を創り、雅治さんの「風」ツアーの合間にチーム福山の皆さんでデモテープを作成、病床の美奈子.さんに届けたという話には、今でも胸が熱くなる。

 今宵は、井上鑑氏によるピアノソロバージョン。
 M.I.H.バンドバージョン弦楽器バージョン吉田兄弟の津軽三味線バージョンともまた一味違っていて、しっとりした中にも煌めくような輝きが感じられた。

 くしくも11月6日は、美奈子.さんの5回目の命日である。
 少し早めに空から下りてきた美奈子.さんが、鑑さんの弾かれるグランドピアノに頬杖をつき、あの可愛らしい笑みを浮かべて鑑さんを見守っている......そんなイメージも見えてきてしまった。


 はんなりと癒されたところで、いよいよ第二部のクライマックス、「寄せ」の『Herbarium』。第一部の『Wordium』同様、こちらもまた壮大な組曲である。

 ただし『Wordium』とは異なり、『Herbarium』は造語ではない。きちんと辞書に載っている。研究社の英語辞書によると、「(乾燥)植物標本集、植物標本箱(室、館)」という意味だそうな。

 音と言葉の想起で語られたのが第一部『Wordium』であるのに対し、第二部『Herbarium』は音と植物の想起で語られる。音楽図譜『千律譜 BASHO』からコンパイルされたオリジナル組曲第2番、ということかな。 


 『Herbarium』のメインテーマは、『Rock Azaleas』。
 松尾芭蕉の「岩躑躅 染むる涙や ほととぎ朱」に触発されて創られた楽曲で、『千律譜BASHO』内で披露されている。

 『Rock Azaleas』の間には、大江健三郎氏へ捧げる『5000 Oak Trees』、クロード・モネへ捧げる『睡蓮』、松岡正剛氏との出会いの曲『花カマキリ』、さらに、『千律譜BASHO』内で披露されている『Up North』、そして再び『Rock Azaleas』へと回帰する。


 「『FLORA』の書籍が好きで、『千律譜BASHO』につながっていった」

 そんなふうに、鑑さんはご自身の『Transitionライブ』にて語っていらっしゃる。
 『FLORA』は、ロンドン自然史博物館の植物標本46点を収録した書籍で、植物標本集でありながら色鮮やか、花弁や葉の筋も鮮明で、じつに精度が高い。
 『FLORA』を読むときは、1ページ1ページ、丹念にじっくり眺めてしまう。えりを正したくなっちゃう書籍である。

 『Herbarium』も、そんな感じが濃厚な組曲だった。
 幾重にも組み立てられた音符たちを、ていねいに大切に真剣に聴きたくなる。姿勢を正して身を乗り出し、背もたれ不要になっていく。笑。


 特に印象的だったのは、『Rock Azaleas』。
 『千律譜BASHO』の中で、個人的に最も好きな楽曲である。......今のところ、ね。
 こうやって生演奏で聴かせていただくと、さらに印象が強まる。岩躑躅が群れて咲くと山の色が完全に変貌してしまうが、その様子までくっきりと色鮮やかに見えてきた。

 『Up North』も、素敵だった。
 この曲も同様に『千律譜BASHO』に掲載されている。
 『Up North』が、どんなふうに『Rock Azaleas』に戻っていくのかな? などと一瞬思ったが、それは鑑さんに対しては要らぬ心配&None of your business。やっぱり鮮やかな手綱さばき。


 『花カマキリ』の演奏にも驚いた。
 『花カマキリ』のCMがオンエアされていた1987年当時、当方はライター&エディター+エアロビインスト+シスオペの三足の草鞋で仕事をしていたから、テレビを見る余裕はまったくなかった。
 なので、実際のCMでどのように使われていたのかはまったく知らない。しかし、迫力あるすばらしいCMであったことは、鑑さんの演奏から伝わってくる。

 花カマキリ(ランカマキリ)は、その名のとおり、蘭の花のように薄いピンクの身体をしたカマキリである。擬態の中でも、鮮やかさと美しさがピカイチ。思わず触りたくなる可愛らしさ。
 ところが実際はカマキリなわけで、鋭いカマを持っている。美しさに惹かれてつい触れてしまったら、「いてててててて~っ!」となってしまう。

 そんな「美しいけれど、触れると痛い」状態を、鑑さんの音楽からも濃厚に感じた。美しいけれど鋭角的でパワフルで、凶器であり狂気でもあり、エネルギーが満ちている。
 当方の脳内も、同様にエネルギー満タン。サボテンも見えてきた。ちくちくした松林も見えてきた。さらには、サバンナ。牙むき出しのライオンまで登場。ちくちくの炸裂状態(わはは)。


 『Herbarium』のエンディングも、じつに印象的な終わり方だった。
 少しずつ少しずつ音が消えていき、完全になくなるまで、鑑さんはキーボードに手を置いたままその瞬間をずっと味わっていらした。

 鑑さんの音楽は、音のないはずの[休符]にも、心の音が存在する。
 [休符]は休みではない、そのことを鑑さんの演奏からはリアルに感じ取れる。

 最近、吉田兄弟のライブでも、この[休符]を感じるようになった。
 音がない休符のはずなのに、心の音がつながっている。今までは、終わりと勘違いして休符のときに拍手するお客さんもいらしたが、今、休符中にほとんど拍手が起こらない。

 昨晩は吉田兄弟の良一郎さん&健一さんもご覧になっていらしたから、きっと、その部分も伝わったのでは?と思う。
 これからのライブで反映されること、期待していますよん、良ちゃん&健ちゃん。


 ん?あれ? このブログもめちゃくちゃ長くなった。
 第二部エンディング&統括は、別のページに書くことにしよう。

[続く]


●「僕の音」ライブ ライブレポート・マインドマップ●

「僕の音」ライブの根幹は、2つの組曲。

それぞれ演奏時間も内容も、濃くて味わい深い組曲で、
「なんだか専門辞書を閲覧している気分」だと思えた。

そこで、Wordium辞書とHerbarium辞書をイメージしながら
セントラルイメージをまとめてみました。

さらに、このライブで印象的だったのは、
影だけが登場なさった鑑さんのお姿。
このお姿も、辞書からほんのりと見えてくるイメージでまとめてみました。

(それぞれに合わせて3枚描きたかったのだけど......時間切れ)